〜PIAZZA ECUの再生修理のある生活〜 

★★ 突然呼び出された(笑)
Last update 2007.06.27
それは、オートハウスハルキからの突然の電話で始まった。

「ごめん、ちょっとええか〜。ヒアッツァのエンジン掛からへんねん。燃料来てないねん。
あとはインジェクタかコンピュータ(ECU)やねんけど、どっちか判らへん。
昨日までは動いとったんやけどな・・・。お手上げや。」

安請け合いしてしまうのが私の悪い癖である。
「わかった、とりあえず店に行くから。」

思いつく限りのところをパーツ交換し配線を引き直したが、エンジンの気まぐれは直らないらしい。
インジェクタとECUのあいだにあるドロッピング抵抗にオシロスコープを繋いで波形を探るも、
117クーペで測定したような矩形波は出ていなかった。
自分のクーペで録った波形の記録が思わぬところで役に立った。

ピアッツァのみならず、いすゞ乗用車に関しては社員よりも詳しいという噂の某氏に症状を相談してみた。
すると、ピアッツァECUは経年劣化もあって相当に壊れやすいとのこと。
基板材質も紙エポキシという、安価で吸湿性のあるものらしい。
吸湿すると温度変化で拡大膨張と収縮を繰り返すため、プリント基板の銅箔が浮き上がって剥げたり、
テンションが掛かって切れたり半田が取れたりするのである。
非常にミクロな世界なので、目視ではまず見つからない。 

などとやっていると、偶然にもエンジンが掛かった。
なるほど、ECUが冷えたら動くのか。
ますます半田か基板障害が疑わしくなった。

職業上知り得たノウハウを駆使して、ドライバーの柄(絶縁物)で静かにECUを叩いてみた。
するとエンジンがストンと止まった!

始動幹⇒叩く⇒止まる、を何度か繰り返していると、止まらなくなってしまった。
「このままオーナーさんに返すか?」と冴えない冗談を言いつつ、
ECUを持ち帰って半田付けをやり直す覚悟を決めたのだった。


 修理ドキュメント 

制御ユニットを分解してみると基板の材質が紙エポキシで、吸湿防止のためか部品ごと何かでコーティングされているのにも驚きました。
ですから、見た目は非常に綺麗でトラブル源とはとても思えませんでした。
しかも後で判りましたが、診断LEDも赤緑がキーオン・エンジン始動中とも点灯しておりました。
点滅ではありません。

で、基板を制御ユニットのフレームと何度か脱着しているうちに、基板剥き出しで車内のハーネスに繋ぐとエンジン始動し(LEDは緑赤点灯)、制御ユニットのフレームにネジ止めすると動かない傾向があるように感じました。
確信は50/50でしたが、直感的にそう感じました。

そこで、基板剥き出しにしたまま、柄が重いプラスチックのドライバーを使って、柄でアルミのヒートシンクをコンコンと軽く叩きました。
ヒートシンクは「コ」の形状で基板に直立して構造材を兼ねており、基板にはフレームとネジで共締めのほかに、ハーネスのコネクタも共締めされます。
基板剥き出しでエンジン始動できたのは、ハーネスコネクタ共締めのお蔭です。

叩くのは基板方向に、下から上に周回するように移動しつつ叩きました。

すると、丁度、診断LED付近を叩くとエンストしたんです。
「コ」の上の部分、中央辺りです(判りにくくて、すみません)。何度か試しましたが、キッチリ止まります。
止まったときのLEDの状態はどちらか片方が点灯した状態で、点灯するLEDはランダムな傾向でした。

更に範囲を絞るべく、基板裏側を叩きましたが一向にエンジンは止まらず、ヒートシンク、挙げ句にあらゆるところを叩きましたが、症状は隠れてしまいました。
「このまま返すか?」と疲れた我々は冴えない冗談を言ってました。

ヒートシンクを叩いたのは、かつてのハード開発業務で工場に出荷支援に行った頃に、現場でやっていたことを真似したものです。
接触不良を見つけ出す、割とポピュラーな方法です。
まさかJR120の修理で役に立つとは思いませんでしたが。


ECUケース外装

写真をクリックすると拡大表示されます。

 

大きさはだいたいB5版くらい。
意外に軽く、1kgちょっとという感じ。
 

  

ECUを置くシャーシが別にあるのですが、撮り損ねました。
ECUはシャーシにゴムベルトで留められています。
ECUの蓋は4箇所の爪を折り曲げて、底板に固定されます。
当然ながら修理の際には爪を折ってしまわないように、回数を最小にする工夫が求められます。
爪が折れたらネジ止め、という訳にはいかないので要注意です。

右写真のアルミ板(コの字になっている)は構造材ですが、発熱する半導体の放熱器も兼ねています。
その上から熱伝導が芳しくない鉄カバーを掛けるので、放熱性はよくないことが想像されます。
だれか計ってみませんか?
 

  

底板の形状です。
左写真のアルミ板は半導体の放熱器を兼ねています。
放熱器の熱を分散させるのと、ハーネスの応力(引っ張り力)を分散させるために、
底板にネジ止めされています。
 


ECU基板

 

二枚の基板で構成されています。
ちいさいほうの基板は半田付けされた電線で繋がっており、千切らないよう注意が必要です。
 

 

左写真はECUの心臓、CPU(JECSと書かれた部品)と、
制御プログラムか又は制御データが書き込まれたPROM(PB425C)[512word×8ビット]、
CPUの動作速度を決める水晶振動子(右写真のシルバーの部品)。
水晶振動子は4MHzのものが使われています。
なお、この頃のCPUは現在のようにオーバークロックして使えるものではなく、
速いもの(6MHzとか8MHzとか)と交換しても動かない確率が非常に高いです。
また、PROMはヒューズ溶断タイプというもので、ビットを1から0に書き換えることはできても、その逆はできません。
また、書き換え自体ができないものも存在しますが、このPROMが該当するかどうかは判りません。
 

「A12−001 038」というのはJECSの社内型番なんでしょうか。
 

   

オペアンプ達(OP−AMP)。

左写真から、HD1444332(正体不明)、HA17902PJ、HA1830PS(たぶんオペアンプ)、HA1831P(たぶんオペアンプ)です。

抵抗が二本並んでいるのは、オペアンプまわりの抵抗値を細かく設定でき、
非常に変動しにくい信頼性を得られるからではないかと考えています。
117クーペのECUにも同様の抵抗実装がなされていますが、その数はPIAZZAの倍以上あります。
抵抗値は恐らく細かく調整されたでしょうから、品質を安定させるために相当な手間が掛かっていた事と思います。

抵抗と調整の手間を無くす事は高品質化、品質の安定化、コストパフォーマンスに寄与しますので、
このあたりにCPUとROMによる制御システムを導入した効果が現れているのでしょう。

 

ちいさいほうの基板には汎用オペアンプ[PC1251C」(単電源デュアル汎用演算増幅回路)と
汎用トランジスタ(2SC945か何かだったと思う)が載っています。
 

 

左写真のトランジスタ「2SD1309」はインジェクター駆動用です。
+12Vのパルス電流という事もあり発熱はさほど大きくないようです。
右写真は+12Vを+8V(最大出力500mA)に変換する電源IC(黒い部品、HA178M08)で、
隣のトランジスタ「2SB857」(緑の部品)と合わせてかなりの発熱があります。
※HA178M08のデータシートが見つからなかったので互換品のデータシートを載せておきます。

この発熱が吸湿を呼んで紙エポキシを膨らませて銅を剥離させ、
さらに半田に熱衝撃(加熱と冷却)が加わることで脆くなり、微細なクラックが生じるのです。
 

 

電源ICである「HA178M08」とトランジスタ「2SB857」の半田付けが微妙に変色しています。
変色ということは銅泊もダメージを受けている可能性が高いので、再半田では治らないか再発する危険があります。

銅箔でなくても繋がればよいので、配線(赤い線材)を追加して配線をやり直しました。
配線の太さは銅箔の広さで決めればよいと思います。
「HA178M08」と「2SB857」は放熱器に絶縁・ネジ止めされていることから
相当の電力を扱うと見做して、太めの電線を使ってみました。
 

障害部位を探したときの方法を書いておきます。

ピンク色の矢印は叩いていく順番を示します。
オレンジ色の矢印は叩く部位を示します。
部位は大体でいいんですが、できれば細かく。

手順は、まずエンジンを始動します。
最初はごく軽く叩きながら一周。
次に僅かに強めてさらに一周。
さらに強めて・・・ということを繰り返します。
どこかでエンジンが止まったり、エンジンの音が変わったら、
その付近に原因があります。

エンジンが掛かったままやるので、工具などでショートしないよう細心の注意を払ってください。

なお、クリーム色の円は配線を追加したエリアです。

これで一応直ったように見えたのですが、結果的にはこの基板のCPU、メモリ以外の
ほとんどの半田をいったん吸い取って、新たに半田付けをやり直すことになってしまいました。

半田を吸い取るには専用の工具が必要です。
基板上の半田は表面張力が強くて、半田吸い取り線(アミ線)が馴染みません。

吸い取り器は手動・電動を問わず真空ポンプを使ったものがよいですが、
基板上の半田にはフラックスが残っておらずカサカサになっており、
吸い取った半田がポロポロと崩れて破片が飛び散ります。
基板上に落としてショートさせないよう細心の注意が必要です。

それと、両面基板ですがスルーホールは一切なく、裏と表は針金を半田付けすることで接続されています。
半田を吸引するときには針金を落とさないよう、注意が必要です。

本職として治すプロフェショナルは顕微鏡で半田の良否を見るのでしょうが、
アマチュア的には絨毯爆撃的に「できるところは全部やり直す」という方法が無難なように思います。

なにより、結果に悔いが残りませんから、趣味を嫌いにならずに済みます。




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